2022.11.02 UP
長崎県の西に位置する「五島列島」。潛伏キリシタンの歴史をつなぐ教會や想像を超える美しい自然、日本隨一の釣りの聖地。観光地としてだけでなく、移住者も増えているという、いま注目の離島です。そんな五島に、新たに「五島リトリートray」というラグジュアリーホテルがオープン。実はこのホテルを含め、雙日は五島を舞臺に地方創生の事業に取り組んでいます。盛り上がりを見せる島の魅力を探るため、caravan編集部は五島へ。心と體を整える、リトリート旅。2本仕立ての旅の記録としてまずお屆けするのは、ホテルを起點に取材を通して広がっていった五島の輪。島の滯在から見えてきたのは、個性豊かな人の営みでした。
Photograph_Shuhei Tonami
Text_Mami Wakao
Edit_Shota Kato
Special Thanks_Susumu Kawaguchi, Tomoyuki Torisu
2022年10月からのNHK朝の連続テレビ小説『舞い上がれ!』の舞臺としても腳光を浴びている、長崎県?五島列島。5つの大きな島を中心に、152もの島々で構成されています。
悠久の歴史をみれば、五島を含め長崎県は、日本列島の中でも西端に位置することから、遣唐使の時代からアジアとの交流の要所であり、交易で栄えた場所です。そこで、16世紀の大航海時代に入ってきた文化の一つが、キリスト教です。
1879年に創建された堂崎教會。五島初めての洋風建造物であり、キリシタン復興のシンボルにもあたる。
キリスト教は、海外の貿易船がもたらす利益に目を向けたキリシタン大名を中心とする華やかなキリスト教文化が花開きましたが、江戸幕府の禁教令によって、「踏み絵」をはじめとした弾圧が始まりました。キリシタンたちの一部は命からがら五島に逃れ、250年ものあいだ島に隠れ住みながら信仰を守り抜いたといいます。信仰の自由が認められた時に建てられた島々の教會は、世界文化遺産にもなっています。
五島列島の中で一番大きく人口も多い福江島。2022年8月30日、雙日はこの島を舞臺にした地方創生の取組みとして、ラグジュアリーホテル「五島リトリートray」をオープンしました。
ホテルの運営を擔當するのは溫故知新。ミシュラン最高評価を獲得した「瀬戸內リトリート青凪」や「壱岐リトリート海里村上」を手掛けている、スモール&ラグジュアリー系ホテル運営の第一人者です?!肝鍗uリトリートray」のコンセプトは「祈りの島、光の宿」。雲の切れ間から差し込む光が強靭でしなやかな生き方を醸しだす島。歴史を運ぶ、潮の香?五島の風。美しく碧い水平線に包まれるオーシャンビューの客室と露天風呂(全室)。そして、四季折々の地域食材を活かした「光の和食」。五島の魅力をたっぷりと堪能できます。
到著して最初に迎えてくれるのは、水盤からファサードに反射した波打つ光。そして、エントランスに飾られた、オブジェは島の溶巖石を加工したもの。
「鐙瀬海岸はホテルから見える鬼岳という火山が噴火してできた溶巖海岸なんです。これは、ホテルを建設する際に掘った溶巖石を切り出したもの。下の面は何萬年の時を刻んできた地層で、磨き上げられた一番上の面はこのホテルと共に時を刻んでいくという願いを込めています」(総支配人?西浦 圭司さん)
五島の教會建築から著想を得たステンドグラスの窓。波打つガラスボールのペンダントライトにゆらめく光が燈る。
ロビーに入ると、そこは一面の海。まわりの壁や中央に置かれたテーブルにも景色がぼんやりと映り、自分もその中に包まれているような気分に。光の輪で別の時空へ遊離していくような廊下を通って、部屋に入ると、またも一面の海。片側の壁が鏡になっていることで、180度風景を見渡しているかのよう。
「內裝設計とデザインを手掛けたのは橋本夕紀夫氏です。テーマは"THE SCAPE"。外の光と景色を中に溶け込ませるように設計しています」(西浦さん)
全室オーシャンビューのラグジュアリーな客室??褪衣短祜L呂の水面にも、ぼんやりと風景が映り込みます。
客室でソファに腰掛けて景色を眺めていると、なにやら可愛らしいお著き菓子が。ホテルの企畫とプロデュースに攜わった、プロデューサーの小林未歩さんが教えてくれました。
「かんころ餅という五島の伝統菓子です。干したさつまいもが練り込まれた甘い餅で、冬の保存食として親しまれてきました。潛伏キリシタンたちが命を繋いだのも、実はさつまいもなんだそうです」
お茶は「椿茶」。古くから五島に自生していた椿の木は、お茶やオイルの原料として島の生活に深く結びついてきました。ほんのりとした甘みに、旅の疲れが癒されます。
オーバルボックスに収納された客室のアメニティ。なるべく自然素材のものをセレクトしている。アメニティは五島の椿油を使用した『ON&DO』であることも嬉しいポイント。ホテル地下1階のスパ施設「ray spa」でも、五島の椿オイルを使用したトリートメントを體験できる。
海と空の色が刻々と変わる夕暮れ時。目の前に海、後ろに鬼岳を見渡せるレストランで、島の食材を使った和食のコースを。
肉?魚?野菜?果物まで、四季折々の地域食材を活かした「光の和食」。
五島の海で採れた魚を中心に、野菜や五島牛など、ほとんど島のものだけを使い、身體に馴染むような優しい味付け。目から口から、五島の自然が身體の內側へと溶け込んでいきます。滋味深い料理に舌鼓を打った後は、ロビー橫のray barへ。五島の椿酵母を使った焼酎で、季節のカクテルをつくっていただきました。
焼酎は福江島唯一の焼酎醸造所「五島列島酒造」でつくられたもの。この「五島列島酒造」も、実は雙日が経営のサポートをしています。焼酎は玄人向きなお酒と思っていたけれど、この焼酎はふんわり華やかな香りがして、まろやかで飲みやすい。おいしさの秘密を探るため、翌日はその醸造所を訪ねました。
あたり一面が桃色の朝もやに染まる、日の出前。ふと目が覚めて、露天風呂に浸かりながら、海の先に見える島々を眺めていると、心も體もすっきりと整っていきます。その時間の流れはまさにリトリート。體に優しい和食の朝ごはんをいただいて、めざすは「五島列島酒造」へ。
島の素材を使ってお酒をつくりたいという思いから、2008年に創業した五島列島酒造。最初に注目したのは、島で栽培されているさつまいもでした。さつまいもと言えば、昨日食べた「かんころ餅」を連想します。
秋から始まる焼酎の仕込みに向けて、樽を手入れする杜氏?谷川友和さん。
「五島で親しまれているかんころ餅の芋を使って焼酎をつくったら、とてもおいしくできたんです。一般的な焼酎で使われる芋はでんぷん質が多く甘みの少ない品種ですが、五島の芋を使ったこの芋焼酎は甘くてフルーティーな香りが味わえます?!梗ǘ攀?谷川友和さん)
より芋の甘みを楽しめるお酒として最近開発したのが、加水せず濃厚なさつまいもの甘みをそのまま味わえる「蔵出し原酒」と、より甘みの強い「紅はるか」を使った芋焼酎です。五島列島酒造に関わる雙日の星野隆弘は「素晴らしいお酒をつくってくれた彼らの想いを広げるためにも、ここから雙日の力を発揮するとき。日本中で楽しんでもらえるように、販路開拓に挑戦していきます」と意気込みます。
「蔵出し原酒」と「紅はるか」は素敵なボトルラベルが特徴的。このお酒の味わいをよく表しています。
「このデザインは、五島のデザイナー?有川智子さんにつくっていただいたんです。彼女は10年ほど前に母娘で島にUターンした娘さんの長女。お母さんの和子さんは島內で『ソトノマ』というコミュニティカフェを創業して、次女の慧さんは五島で空き家マッチングの不動産やシェアハウスをやっていて、三人とも島の重要人物ですよ」(杜氏?谷川さん)
谷川さんによると、「ソトノマ」というカフェは島の人々や移住者、旅行客を繋ぐハブになっているのだとか。たくさんお土産を買って、酒造をあとに。
五島列島酒造の皆さんと、酒造をサポートする雙日?星野隆弘(左)。
白とブルーの可愛らしい看板を目印に中に入ると、とてもあたたかい空間が。"お母さん"と呼ばれる女性が笑顔で「いらっしゃいませ!」と迎えてくれる。この人が「ソトノマ」創業者の有川和子さんだ。
「ここは私が島にUターンした2013年につくったお店なんだけど、毎日お店にいるのも大変でね。いまはこの桑田くんにお店の経営を任せて、私はスタッフみんなに料理を教えたりしているの」(有川さん)
「僕はもともと東京のファッションブランドで働いていたんですが、ある時友人と一緒に五島に遊びに來て、この店でお母さん(和子さん)と出會いました。それから福江島が気に入って何度か遊びに來ているうちに、島の會社から『ウチに來ないか?』と聲をかけられて(笑)。お母さんにも、『あんた、もう島に帰ってこんね』と言われて、私もいずれ島に帰って仕事がしたかったので、この際思い切って移住することに決めたんです」(桑田さん)
福江島の會社で4年間働いた後、桑田さんは獨立して仲間と「hotel sou」を開業。桑田さんのように、「ソトノマ」を通じて移住してきた人は100人近くにも及ぶのだとか。和子さんは島で生まれ育った後、大阪でハウスメーカーのデザイナーとして働いていました。ただ、帰省する度に島が寂れていくのを見て「なんとかせんばね」とUターンを決意。そして始めたのが「ソトノマ」でした。
ハウスメーカーでの経験を生かして、座ったときの目線の高さなどを工夫し、人が落ち著く空間をセルフビルディングでつくった。
「食材はぜーんぶ島のものよ。お米も。おいしいご飯で、心も身體も元気になってほしいから。五島リトリートrayの料理長さんも何度も食べに來てくださって、すっかり仲良し。島の食材やハーブの使い方を教えてあげたりね」(和子さん)
とにかくチャーミングで、會った途端に心をほぐしてくれる和子さん。柔らかい物腰だけど、目の奧に島への強い想いを宿す桑田さん。二人の人柄が、島を盛り上げる人々を有機的につないでいくのでしょう。
近所の女の子が、家で採れた野菜を持ってきたり、著名人家族が來店したり、「五島リトリートray」のスタッフさんの姿もあり、まさに島のハブとなる存在。島を存分に楽しみたいという方はまず「ソトノマ」を訪れると、偶然の何かと出會えるかもしれません。
ソトノマ店主の桑田隆介さん(左)、有川和子さん(左中)とスタッフの皆さん。訪れるすべての人を溫かく迎えてくれる。
島の西側に移動して、富江地區に新しくできたお蕎麥屋さんへ。その名も「五島列島製麺所」です。瓦屋根の家々が連なる中、クールな外裝のお店が突然現れます。
建築家?石飛亮さんが手掛けた、日本家屋をリノベーションした店舗
「ご」と書かれた暖簾をくぐると、天井が高く心地いい空間が広がっていました。平日のお晝時を少し過ぎているのに、店內はお客さんでいっぱい。地元のおじいちゃんおばあちゃんや、カップル、旅行客など、客層もさまざまです。
蕎麥は細いながらもコシがあって、弾力のある食感。香りが強いので、塩だけでもおいしくいただけます。五島の蕎麥だから、"ごSOBA"という名前だそう。五島では、日本三大うどんのひとつでもある「五島うどん」が名物。圧倒的にうどんの存在感が強い五島で、あえてなぜ蕎麥なのでしょうか。
「実は五島では、昔からそばの実を育てて蕎麥もつくっていたんですね。それで、在來種のタネからそばの実を育てて、五島の蕎麥を復活させてみようと挑戦を始めたんです」(五島列島製麺所代表?山本清和さん)
実はこのお店、元は山本さんの実家だったのだとか。長崎市內で建設業を営む山本さんは地元?福江島でも何か事業を始めたいと考え、行き著いたのが蕎麥でした。
「この家に住んでいた母を含め、島の女性たちが働く場所をつくりたい、というのが最初の想いでした。これからは、この"ごSOBA"を九州に広げていきたいと思っています」
山本さんのお母さん(中央)と、キッチンとホールを切り盛りする看板娘のみなさん。
一度は五島から飛び出ても、また違った形で島を盛り上げる。島の外と中を行き來しながら、島の魅力を再発見し、外に広げていく。山本さんと、お母さんたちの笑顔に、島をもっともっと元気にしていくエネルギーを感じました。
おいしいコーヒーが飲めると聞いて向かったのは、製麺所から近くにある「さんごさん」。古民家を改裝した私設図書館で、「CORAL COFFEE」というコーヒースタンドが併設しています。
ちなみに、昔からサンゴの水揚げが盛んだった富江港はサンゴのような薄赤色のお家が多い。これは船舶用に使われていた塗料が潮風に対して丈夫なことに由來します?!袱丹螭搐丹蟆工喂琶窦医êBもそのひとつです。
古民家のリノベーション建築は能作淳平さんが手掛けている。
店內に入ると、ずらりと壁一面の本棚。この本棚には、島の內外の人が「人生の3冊」として選んだ本が寄贈されています。一冊ごとに、寄贈した人の名前や選んだ理由が栞のように挾まっているのです。
「さんごさん」を切り盛りしているのは、東京から移住してきた大島健太さん。大島さんも、桑田さんのように五島が気に入って移住してきたのでしょうか。
「いや、僕は別に五島が特別好きだったとかじゃないんですよ。美術系の仕事を辭めて無職だったときに、友人の鳥巣智行くん(さんごさん創設者)らから『島に図書館をつくったから館長をやらないか?』と誘われて。そこまで乗り気じゃなかったから、『とりあえず2ヶ月やってみたい』と言ったのが、2016年の春。そこからいろんなつながりもあって、ちょっと延長するかと続けていたら、いつの間にか6年経っていたという(笑)」
なんとも裏表のないコメント。大島さんは「島でおいしいコーヒーを飲めたら」と思いつき、獨學でコーヒー豆の焙煎を始めて「CORAL COFFEE」をオープンしてみたり、アーティストを呼んで展示をしてみたり?!袱丹螭搐丹蟆工趣い訾蛲à筏?、自身の蒔いたタネが少しずつ花を咲かせています。
「東京に戻りたくならないのですか?」と聞くと、意外な答えが返ってきました。
「1年くらい前にいろいろ嫌になっちゃって、2ヶ月くらい店を閉めて東京に戻ったりもしていました。アートの展示を見に行ったり、おいしいご飯を食べたり。でもしばらくいると、なんだかお腹いっぱいというか。東京で最新の刺激に觸れている自分と、五島でゆったり生活している自分が、お互いに『どうだ、いいだろう』ってマウンティングしているくらいがバランスいいのかもと気づけたんです」
外からの刺激と、等身大の生き方。どちらが良い悪いではなく、大島さんの中ではどちらの良さも共存しています。
福江島を一周して、海沿いを走りながら「五島リトリートray」へと戻ります。日本の西端という土地柄もあり、外のものを受け入れる懐の深い五島。だからこそ、島の良さに外から光を當てる人や、島外と行き來しながら地方創生の新しい風を吹かせる人が、自然と増えているのかもしれません。ホテルを通じて旅行客に五島の素晴らしさを體感してもらう。その立場から西浦さんは五島の魅力を語ります。
「島の人たちにたくさんのサポートをしてもらって、ようやく開業をすることができました。外から來た私たちに対しても、何でも教えてくださって本當に優しいんです。五島はダイナミックな自然やユニークなお店など、本當に魅力がたくさんあって、これからの可能性を感じる島です。このホテルが、世界中から人を呼ぶ入口となって、五島の豊かさをたくさんの人に體験してもらいたいと願っています」(西浦さん)
「地元の方も最初はこの土地にホテルができると聞いて不安もあったかと思うのですが、お披露目會にご招待したときには、『素敵なホテルができて良かった』とお聲をいただいて安心しました。仕事柄いろんな土地に滯在してきましたが、五島ほどバランスのいい土地はないと思います。誰もいない大自然の中に身をおいて気持ちをリセットすることもできますし、素敵なお店や歴史、文化を楽しむこともできる。五島でいろんな光を見つけてもらいたいと思っています」(小林さん)
「五島リトリートray」総支配人?西浦圭司さん(左)とプロデューサー?小林未歩さん(右)
かつて、キリスト教を外敵とみなして、受け入れなかった徳川幕府。キリスト教信者を異端視してきた人々。過去に外のものに対してアレルギー反応を起こしていた時期があったのは歴史が物語っています。そんな事実がありながら、いまの五島で感じたのは、異なるものも自然と共存するおおらかさでした。
五島の海に佇む洋上風力発電機。五島の沖合は強い風が吹き抜けるため、再生可能エネルギー源として注目されている。
島の內と外。自然と文化。外界の景色と、自分の心の內側。対極にあるような二つの要素が緩やかに溶け合う、あるいは行ったり來たりすることで、五島列島は訪れた人々にとって、何度も足を運びたくなる場所になりました。私たちもまた、五島を旅する日が訪れることを心待ちにしています。
長崎県五島市上崎山町2877
Tel: 0959-78-5551
オフィシャルホームページ
https://goto-ray.com/
オフィシャル Instagram
https://www.instagram.com/okcs_gotoray/
?
長崎県五島市三井楽町濱ノ畔3158
9:00-17:00
土曜9:00-15:00
日曜10:00-15:00
Tel: 0959-84-3300
オフィシャルホームページ
https://gotoretto.jp/
オフィシャル Instagram
https://www.instagram.com/gotorettoshuzo/
?
長崎県五島市堤町1348
9:00-16:00
Tel: 0959-88-9191
オフィシャル Instagram
https://www.instagram.com/sotonoma_kodomo/
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長崎県五島市富江町職人304-9
11:00-14:30
夜は一組のみ完全予約制
Tel: 0959-86-2287
定休日: 日曜?木曜?祭日?第一水曜
オフィシャルホームページ
https://gotofactory.jp/
オフィシャル Instagram
https://www.instagram.com/gotofactory/
?
長崎県五島市富江町富江280-4
11:00-17:00
不定休
オフィシャルホームページ
https://sangosan.net/
オフィシャル Instagram
https://www.instagram.com/353sangosan/